人間と暮らせば 猫の独白その1

サンチョ・パンサ

「温かいクリスマスを迎えたい」という紙がついたケージに

入れられて、熱帯魚販売店の店先にいたことを覚えている。

仲間が2匹いた。

 

クリスマスが来る前に、もう1匹と一緒に4人家族の一員になった。

僕はドン・キホーテの従者の名前「サンチョ(サンショ・パンサ)」をもらった。

相方はドン・キホーテの思い姫「ドルシネア(ドルシネア・デル・トボソ)」となった。

お母さんがドン・キホーテに心酔しているからだとか。

少し経ってから「僕」ではなくて、「私」だったことがわかったけど、

そんなことは気にしない。

だって、しばらくして病院へ連れていかれ、気が付いたら僕でも私でもなくなっていたから。

 

人間界では「名は体を表す」という言葉があるらしい。

同居する人間たちが

「サンチョって名前だからね。ちょっと抜けている。でもそこがかわいい」

「こんなに人見知りしない猫は珍しい」

とよく言っていた。

 

僕も妹のMちゃんも小さかったから最初は喧嘩もした。

Mちゃんが学校に行くようになってからは僕が

「お帰り」

って言って迎えるようになったんだ。

Mちゃんと僕は親友になったんだ。

 

途中からオカメインコとチンチラのミックスも家族になった。

オカメインコは僕ら猫族の上に立った。

僕らはオカメインコ、太郎ちゃんに従っていた。

太郎ちゃんは菜っ葉と果物とひまわりの種が嫌い。

僕らのカリカリご飯が好き。

太郎ちゃんは僕といつも一緒にいた。

 

僕は家族もお客さんも太郎ちゃんもみんな、みんな好きだった。

時々来るおばあちゃんは「サンチョはとってもいい子だ」って

いつも言ってくれた。

 

僕(三つ子の魂だな、この言い方が好きだ)はお別れの時がわかったんだ。

ある日の夜、明日の旅立ち前の挨拶を家族4人にちゃんとしたんだ。

一人一人のところに行ってしたんだ。

16年の楽しい暮らしに感謝したんだ。

今から21年前のことだ。

家族はその後も僕のことをよく話題にしている。

今でも時々聞こえてくる。