落語の前振り「マクラ」は今から始まる本題を想像する楽しみと、噺家さんの観察眼の鋭さに感心したり、知らなかった情報を得たりする楽しみがあります。
今回は一席目では落語界の年末年始の習わしを、二席めでは今ではあまり聞かなくなった物売りの声が「マクラ」で登場しました。
『尻餅』
落語界では年末に着物を新調し、真打、二つ目の噺家の皆さんは前座、見習いの方々へのお年玉も準備されることがマクラ噺でわかりました。落語界は今、入門者が多いことも知りました。これはお年玉の準備もなかなかに大変なことだと思いました。今も昔も年末は何かと物入りな季節であることに違いはないようです。
宵越しの銭は持たないのが江戸っ子の気質だったようですが、宵越しになりそうな金というものを手にしたことはないと思われる八五郎夫婦が大みそか、集金にやってきた薪屋の亭主をやり込めて退散させ、近所の手前みっともないからと夜中にかみさんの尻を叩いでいかにも餅つきをしている風を装う風景が笑いを誘います。
師匠が語る薪屋の亭主と八五郎のやり取りのテンポの良さに薪屋でなくても押されてしまいます。丸めた手をもう一方の掌に打ちつけて表現する餅搗きの音は蒸したもち米に杵が叩き落される音にそっくりでした。八五郎の女房は尻が痛かっただろうと思いますが、師匠も二臼も搗いたので掌が痛くはならなかったかと、笑いながら心配しました。
食事タイムに今の餅つきが話題になりました。大勢の人が集まって餅つきをする時、臼と杵で餅を搗くが、その餅は廃棄して、餅つき機で搗いた餅を振る舞うという話が出ました。衛生上の観点からということでしたが、聞いた者全員が驚きました。
『井戸の茶碗』
街のあちこちにあるコンビニはまさしくその名の通り便利な店舗です。昔はもっと便利で物売りが家の近くまで来てくれたということで、マクラ噺は物売りの声でした。朝一番に働く納豆売りは寝ている住民を気遣って、いかにも納豆らしい粘りの調子を静かに触れ回ったこと、同じサツマイモで硬い生のサツマイモとフカフカの焼き芋では違っていたことを知りました。物売りする人を「こわきうど」と呼んだそうです。「小商人」のことだそうです。師匠が演じる物売りの様子は、スピーカーから流れる電気信号のような「声」にはない親しみと庶民の暮らしの文化を感じました。
この噺に登場する屑屋清兵衛、貧乏浪人千代田朴斎、細川家家来高木作左衛門、これら全員が心底からの善人なので、聴く者は清々しい気持ちになります。美しい存在に魅了されました。
『食事タイム』
落語二席を楽しんだ後はヴィ・マエストロのソムリエ原岡さんの創作プレートをそれぞれ好みのドリンクを友に楽しみました。この落語会では一人で参加した方も、仲間で参加した方も一緒になって話が弾みます。食事時の桂右團治師匠との交流、普段出会わない方との交流もこの会の目玉の一つです。
料理メニュー
鰆のリュウキュウ*大分の郷土料理魚のしょうゆ漬け
鶏肉ときのこの蒸し物
肉巻きインゲン
焼き野菜
おにぎり