薮田翔一歌曲集&椿姫ハイライト

 

日本の夏!とはっきりわかる湿度をまといながら赴いた三鷹芸術文化センター風のホール。ホール内は期待通りのほどよい空調、入口を彩る花、花、花。コンサートでよくお会いする方もちらりほらり。始まる前の独特の空気もコンサートの楽しみの一つ。

薮田翔一歌曲集

6月に始めて薮田氏のヴォーカリーズ曲『風神雷神』や中原中也の詩をに曲をつけた作品に出会い、どんな方だろうと強く興味を惹かれていました。今回、ご本人から直接お話しを聞くことができました。優しい風貌とすらりとした姿の内側に何事にも囚われない自由、繊細、力強い、遊び心等々をひっくるめた芸術性を宿している34歳の青年作曲家でした。辰巳琢郎氏に問われて話す様子は妙なたとえですが、平安王朝の貴族かと思ってしまいました。お祖母さまが中也の詩が好きで、翔一氏が小学生の頃からよく読んで聴かせてくれた体験が中原中也の詩に注目する作曲活動にも深く関わっているそうです。

 

人の琴線に触れ、哀感や郷愁、懐かしさなどをそそる叙情性をこんなに若い作曲家が伝えることができるのかと感嘆しました。

前半は日本歌曲ということで女性陣は浴衣姿、男性陣は白シャツに黒ズボンに下駄。下駄を履いて歌う感覚はいかようかなと歌う方々を気遣う気持ちを抱えつつ、季節の風情も一緒に楽しみました。

中原中也の詩による作品

エキセントリックと言われる中原中也の生き方から生まれた作品は音楽との馴染みがとてもよく、心に染みると2回聴いて思いました。

百人一首『君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思いけるかな』

音楽はいにしえの人の心模様を、その世界観を今に伝える役割も担えることがわかりました。百人一首にカルタ以外の楽しみを見つけました。昨年から今年にかけて百人一首全てを作曲されたと聞いて、薮田氏の内に秘めた力からの大きさを思いました。

ヴォーカリーズ曲

『天女』:辰巳真理恵さんの清らかなソプラノの歌声が舞い降りる天女そのものでした

『風神雷神』:辰巳真理恵(Sop)、高柳圭(Ten)に今井俊輔(Bar)が加わった演唱は風神雷神がいっとき屏風から抜け出て会場を思うがままに暴れ回っているようでした。

◇オペラ『椿姫』ハイライト

 

 

 

 

 

 

 

1月のサントリーホールブルーローズ、6月原宿のジャルダンドルセーヌ、そして今回、三鷹芸術文化センターでオペラ『椿姫』のハイライトを様々な角度から楽しむ機会となりました。今回はヴィオレッタ(辰巳真理恵)、アルフレード(高柳圭)にアルフレードの父親ジェルモン(今井俊輔)も加わり、悲恋の背景も垣間見ることができるハイライトでした。

油絵と映像が不思議な融合を見せたプロジェクションマッピングが印象的でした。プロジェクションマッピングが大がかりな舞台装置の代わりに舞台情景、登場人物の内面を映し出していました。その技術と演出はオペラハイライトをそれ以上の舞台にしていました。舞台作りの面白さを知りました。

 

辰巳琢郎氏の朗読からは人間の温かみが伝わって来ました。観客と同じところに気持ちを置いていらっしゃるゆえの温かさかなと思いました

 

 

 

 

 

オーケストラの役割も担ってこのコンサート全体を支えたのはピアニスト水野彰子さんでした。前半浴衣を着物のように着こなし、ピアノから響く音も和というか昭和な雰囲気が醸し出される舞台でした。うってかわって『椿姫』ではピアノが持つ能力を最大に引き出し、オーケストラの役割を余すところなく果たしていました。

若い音楽家達が様々な挑戦をする機会となるコンサートをいつでも気軽に楽しむ環境ができていくとよいです。夢空間La Musicaは八王子でそのような機会をこつこつと作っていきたいです。

写真:プログラムより