東京オペラシリーズ「滝の白糸」ハイライト

東京オペラシティリーズ第99回(東響コーラス設立30周年記念公演)

プログラム

弦楽のための三楽章「トリプティーク」 作曲:芥川也寸志

管弦楽幻想曲「飛天繚乱」 作曲:團伊玖磨

饗宴 作曲:黛敏郎

オペラ「滝の白糸」から第3幕 作曲:千住明 原作:泉鏡花「義血侠血」台本:黛まどか

滝の白糸:中嶋彰子(ソプラノ)

欣也の母:鳥木弥生(メゾ・ソプラノ)

村越欣也:高柳圭(テノール)

オペラ「滝の白糸」はオペラではあるけれど、演劇の要素も濃く、“オペラ”になじみのない方でも十分に楽しむことができる舞台です。今回取り上げられた第3幕最後に語られる、滝の白糸の心情、村越欣也の母の思いやりは近年、接することのない美しい日本語で語られます。そして村越欣也は検事代理という職務で発する言葉の内側に観客は限りない哀切と澄んだ愛を感じ取ることができます。客席で涙する姿が見られたのも自然なことと感じました。

竹の秋」「奈辺(なへん)」「あまつさえ」「さなきだに」など今の暮らしの中では聞くことのない言葉がオペラ全体を通して紡がれています。これらの言葉が登場人物をより深く描き出します。言葉の美しいアリアが登場人物と同化した中嶋彰子さん、鳥木弥生さん、高柳圭さんの体を通り、歌として伝わってくる感覚を表す言葉が今は見つかりません。

オペラ「滝の白糸」は2014年泉鏡花生誕の地、金沢で初演された後、東京新国立劇場、2015年に再び金沢で公演されています。これからも公演の機会をたくさん作ってほしいオペラの一つです。

前半は團伊玖磨氏、芥川也寸志氏、黛敏郎氏、「3人の会」の作品が並びました。『「自分の考える理想の音楽』を目指して、誰かに頼まれて曲を書くのではなく、書きたい曲、聴きたい音を世に問う…』とプログラムの解説に結成時の言葉が書かれてありました。

聴いて、なるほど、その意図通りにそれぞれの道を全うされたのだなと納得しました。楽器の使い方もあっと意表を突く場面もあり、「自分の考える理想の音楽」の表れの一つと思いました。交響曲については日本の作品に接する機会がなく、生で聴くのは今回が初めてでした。そのためか、楽しむという領域に達することはできませんでしたが、今まで手にしたことがない正絹の風呂敷、様々な柄構成の風呂敷の結び目に手を伸ばしたような印象がありました。この初体験を何かにつなげたいと漠然と考える今日この頃でもあります。