いしいしんじ氏の回答

新聞家庭欄の人生案内(読売新聞)を必ず読む。

読む理由

  • 人間観察と人のふり見て我が振り直せ精神
  • 世の中を覗き見る
  • 回答者のことばを味わう

座標面が違うと、見える姿、モノががらりと変わることを人生案内は教えてくれる。

回答者の優しさ、豊かな目に心打たれ、

相談者の姿勢を鋭利な言葉で指摘する回答者の眼光炯々な様に圧倒される。

2021年5月5日(水)の人生案内は相談も回答も沁みた。

「ぶらんこ乗り」は知っていても、著作を手にしたことがない作家、いしいしんじ氏に強く惹かれた。

amazonで「麦ふみクーツェ」を注文した。

相談者は罪を犯した人と接する機会が多い職場で働く20代男性公務員。

相談内容概略 

生きたかった明日を東日本大震災で奪われた人々がいる、一方、

少なくない人々が自分の犯した罪と向き合わず、勝手なことを言っている。

彼らは不都合はあっても日々生きている。なぜ反省もせず無事に生きていけるのか。

日本は法治国家で、罪を犯したからといって不当に命を奪われてよいわけではない。

ただ、心の中ではどうしても納得できない。

こんな不条理に向き合うにはどうしたらいいのでしょうか

 

いしいしんじ氏の回答全文

目ざめ、点呼をうけ、食事をする。作業し、運動し、眠る。

塀の外に出ることはできないけれど、会話し、ほくそ笑み、冗談を言う。

彼ら彼女らには、職業がない。町をぶらつけない。

旅行も、外食も、リアルなスポーツ観戦もできない。

世の中で何かすることを全て禁じられている。

いってみれば社会的に「死んでいる」。

半ば生きているようでもあり、半ば死んでるようでもある。

すきとおった幽霊のような存在だ。

この世界で安定して地に足をつけている実感がない。

今過ごしているその場所は、「この世」から遠く隔離されている。

そしてある一定の期間を過ぎれば、曖昧さを剥ぎとられ、まぶしい外へ駆り出される。

墓を掘り起こされ、まぶしい外へ駆り出される。

それまで切り離されていた社会へ、否応なく戻らなければならない。

ほんとうの「つぐない」がそこから始まる。

あなたは僧侶のように勤めなければならない。

不安で無知で無力な、幽霊たちの口に水を含ませる。

花を供え、声をかけ、話に耳を傾ける。

被災して命を失った人々のに語りかけるのと、同じこころで。

さまよう使者につきそい、「つぐない」へと誘う、

あなたはひとりの修行僧なのだ。

(出典:読売新聞2021年5月5日(水)朝刊 人生案内)

 

いしいしんじ氏の座標面、座標軸に強く興味を持った。