原宿駅を降りて賑やかな竹下通の一本裏側にあるレストラン「ジャルダン・ド・ルセーヌ」が会場。たった1本道を入っただけで竹下通りの喧噪とは全く別の世界が広がります。ここは『ブラームスの小径』と呼ばれ、ヨーロッパの静かで、緑豊かな一角にワープしたような場所です。
コンサート前にフレンチビュッフェの食事タイム。同じテーブルの方々と交わす何気ない会話もゆかしく、また満席となったレストラン全体の雰囲気も和やかで、既にこの段階で来てよかったと思ってしまいました。
コンサートの幕開けは藪田翔一作曲「風神雷神」。天空には音楽が満ちているとピタゴラス学派の人達は言ったそうですが、それを実感するデュオ演唱でした。メリハリのきいた雄大なメロディは風神雷神図を想像させます。しかし、その美しい音の流れは天女かと。コンサートタイトル【絢爛たる黄金の声饗宴】そのものでした。
前半の作曲家藪田翔一氏の作品が並びました。中原中也の詩の切なさ、美しさが優しく響きました。日本歌曲の新しい魅力を紡ぎ出す作曲家と思いました。それを美しく歌い上げる若い音楽家二人(辰巳真理恵さん、高柳圭さん)、ピアニスト水野彰子さんに拍手を送りました。
後半はラ・トラヴィアータから。言わずと知れたオペラですが、聴く度に新しい発見をします。オペラが作られた時代背景、当時の社会環境などを自分の中に少しずつ蓄えるごとに、また自分が年齢を重ねるごとに気付くことがあるものだと今回も密かに思いました。
辰巳真理恵さん、高柳圭さんの客席も舞台の一部としてしまう演出で楽しませました。演唱しながら全員と目を合わせる高柳圭さん、『私のお父さん』では客様の一人を〝お父さん〟として巻き込む辰巳真理恵さん、後ろに控えるピアニスト水野彰子さんの笑顔、音楽家と聴衆とが一体化して、これぞ饗宴と言えるコンサートでした。