スペインの叙情 エンリケ・グラナドス

天才ピアニスト・スペイン歌曲の最高峰作曲家と称されたエンリケ・グラナドスの歌曲、そしてピアノ組曲からの抜粋を聴くコンサート。

エンリケ・グラナドスは画家ゴヤと同時代に生き、ゴヤの描くマハ(粋な女)とマホ(伊達男)の世界に魅了され、ピアノ演奏で、歌曲で恋、陶酔、はかなさ、切なさを綴り続けたスペイン国民楽派の旗手!このような予備知識だった私は個人的にも強い思い入れのあるスペインの楽曲を楽しむつもりで会場で席に着きました。

聴いてはっとしました。スペインの楽曲ではあるけれど、「小唄」「端唄」はたまた日々の暮らしに潜んでいる「つぶやき」、そんな日本の『粋』な世界とつながる風景だと。遠い国の100年も前のセピア色の音楽ではなく、今も艶ある華を日本人の心にも咲かせる楽曲と思いました。

もう一つ、グラナドスの生地、カタルーニャ語の歌曲は『かほり』という言葉が似合うものでした。初めて聴くカタルーニャ語の響きはフランス語に近く、歌詞字幕が設置されていたおかげで歌詞も理解できました。読んでみると、高貴(上品)な『かほり』が詞になっていると思いました。スペイン語で歌われるマハ、マホは庶民の気持ちを、カタルーニャ語は貴族の気持ち、または夢を追うドン・キホーテのような郷士の気持ちを歌っているように思えました。

ピアノ組曲「ゴイェスカス」より『嘆き、またはマハと夜のうぐいす』、お門違いとは思いつつ、まず浮かんだのは『即興』という言葉でした。複雑に揺れ動くリズムがこの言葉を呼び起こしたのかもしれません。聴くうちにプログラム表紙に書かれている“スペインの叙情”とはこのことかと思いました。複雑に揺れ動いて、物憂げな様子が美しいメロディーにのせて描かれれていました。身をゆだねる心地よさに浸りました。

当日は音楽評論家、スペイン文化研究家の濱田滋郎先生がグラナドスについてのお話しをしてくださいました。グラドナスへ寄せる思いのほんの一端しか聞くことはできませんでしたが、優しい語り口は父上、童話作家濱田広介氏の作品を思わせました。グラナドスが戦争の犠牲となって49歳という若さでこの世を去った無念を話された時の静かな語り口が印象的でした。父上の著作「泣いた赤鬼」「竜の目の涙」「椋鳥の夢」などの世界にもつながるコンサートだったかと、極々個人的にひっそりと思ってみました。

 

 

 

(注:写真はちらし、プログラムより)