2018年5月13日(日)
渋谷セルリアンタワー能楽堂
遠藤征志ピアノリサイタル 源氏物語54帖の響 Vol.1
御簾越しに見る世界、その深遠、神秘、計り知れない王朝絵巻が、ピアニスト遠藤征志さんの手により音となって、御簾を通り越して届きました。平安時代の王朝人の息遣いを肌で、耳で感じました。音の世界ですが、静寂という表現がふさわしい舞台でした。
甘美、ふくよか、深い音色、低音の力強さ、遠藤征志氏の体から生まれるベーゼンドルファーの響きが登場する女御たちの複雑な内面を浮かび上がらせていました。ウィーンと平安絵巻がこんなにもしっくり結び付くことに驚嘆しました。
能楽師津村禮次郎氏はピアノが生み出す音を纏い、文字を舞と謡に。抑制のきいた動き、目線、指先、足先すべてが語りかてきました。
日本文学者林望先生が語られる源氏物語は”文字の源氏を言葉の源氏へ”という表現が当てはまる素晴らしい時間でした。林望先生から遠藤征志さんは次のようなメールをいただいたそうです。
「じっくりと聴きながら、心に浮かんできた各曲の題名は、次のとおりです。
1,桐壷 追懐
2,葵(葵上) 悲愁(Elegie)
3,葵(六条) 孤独(Baroque)
4,若紫(紫上) 無垢(Innocence)
5,花宴(朧月夜)翻弄(Romanesque)
6,末摘花 不調和(Capriccio)
7,紅葉賀(藤壷)運命(Sin)
8,夕顔 逃亡(Disappearance)
9,花散里 諦観
10, 空蝉 憧憬(Nostalgia)
11, 須磨・明石 疾駆
ちょっと話の種ばかりに。 林 望 」
当日会場での音、舞が新たな命を纏ってよみがえります。
今回、初めて縦の時間軸を描くことに挑戦された遠藤征志さん、「54帖すべての作完成に向けて、これからも精進いたします」との決意の言葉に、会場から「早くしてくれ!こっちは時間がないぞ!」とユーモアと愛情あふれる声がかかりました。