芭蕉の句「さみだれをあつめてすずしもがみがわ」-「五月雨をあつめて早し最上川」とは違い、全てひらがなで表されています-という趣を感じる五月雨ではありませんでしたが、肌寒い雨が夕方まで続いた13日(土)、ヴィ・マエストロで高尾倶楽部「あなたに聴いてほしい アイリッシュハープの調べ」を開催しました。
生活と共にある、語り継がれてきた音楽を奏でるとおっしゃるアイリッシュハープ奏者梶伸子さん3回目の登場です。悲しみに涙する時、喜びに元気をみなぎらせる時、静かに眠りにつく時、アイリッシュハープの音色がそれぞれに寄り添う様を紹介する梶伸子さんのお話しにまず気持ちが惹かれました。
こんなお話しもありました。
小さなお子様が嬉しい時、悲しい時、眠くなった時、どのような時でも童謡「ぞうさん」をねだり、お母さんはその時の状況に合ったテンポで歌ってあげるそうです。そうするとその子の気持ちとお母さんの歌声が交叉して、よい空気に包まれる。
暮らしの中で流れる音楽は自由であってよいし、ひとりひとりが紡ぎ出すものということでしょう。
アイルランドの国民的作曲家、最後の吟遊詩人と称せられるキャロラン作曲の『ブライアン・ボルー・マーチ』-マーチというよりは民族ダンスをしながら進む、そんなイメージの曲-、キャロランがアイリッシュハープ奏者から作曲家へと転向するきっかけとなった曲『シーベグ・シーモア』の2曲が最初に演奏されました。曲から伝わる《やさしさ》や《哀愁》は日本人の《情》に通じるものがありました。ケルト音楽、またはスコットランド民謡が日本人にも深く愛される理由はここにあるのではないでしょうか。
キャロランは、主にパトロン(貴族など)の求めに応じて曲を作る、パトロンの記念日、例えば結婚式などで作曲して贈る、あるいは友人のために作り、曲名にその人の名前がつけられていることが多いそうです。他の方に向けられて作られたとはいえ、そのメロディは私達の心の琴線に触れる思がしました。お客様の背中が物語っていました。
コンサートの始めに気持ちが向いたら一緒に歌ってください、と案内はいたしましたが、やはり声を出すのはハードルが高いのかなかなかスムーズには運びませんでした。しかし、徐々に気持ちもほぐれ、小さな声、ちょっと響く声、いろいろな声が聴かれ始め、ヴィ・マエストロの店内は淡く色づきました。沖縄の音階とアイリッシュハープの音色がとてもよく合い、参加者の歌心をかき立てたのかもしれません。
いつも美味しい料理を作ってくださるソムリエ原岡孝治さんに今回、初めてプレートの料理を紹介していただきました。いつも忙しく動き回っている原岡さんに始めて客席に登場いただきました。
ヴィ・マエストロの壁面
5月11日から6月6日までは『顔万街』と題してニット作家 せきともこさんの作品が飾られています。芸術家の顔、有名な彫刻・絵画がニットで表現されています。写真の水玉模様の洋服を着た草間彌生さん、ダリ、ゲルニカとピカソ、などなど大変興味深い展示です。コーヒー、ワイン片手に壁面の彼らと会話してみてはいかがでしょうか。