下記コンサートちらしの書きだしを読んだら足を運ばずにはいられません。
『ウィリアム・シェイクスピアの戯曲は、後世の作曲家たちの創作の源となりました。それゆえ、文学と音楽の関係に造詣が深い大野にとっても、とりわけなじみの深い劇作家。大野自らが選曲したこのコンサートは、2016年に没後400年を迎えたシェイクスピアへのオマージュであり、オーケストラで聴くドラマという趣向です』
もう一つ、足を運ばずにはいられない理由はプログラムに『ハムレット』より「私も仲間に入れてください」(オフィーリア狂乱の場)があったことです。夢空間La Musicaへの出演も複数回お願いしている盛田麻央さんが2013年8月にオフィーリアを務めた《ハムレット》を見ています。オフィーリアの美しさ、危うさ、深い悲しみが切なく伝わってくる素晴らしい舞台でした。評価も高いものだったと記憶しております。今回初めて海外のソリストの演唱を聴く機会となるので多いに興味を持ちました。
プログラム
チャイコフスキー:交響的幻想曲《テンペスト》op.18
トマ:『ハムレット』より「私も仲間に入れてください」(オフィーリア狂乱の場)
プロコフィエフ:バレエ組曲《ロミオとジュリエット》より
あらすじを簡略、明快に解説した資料を読んでから聴いた《テンペスト》には荒れる海の鈍色、愛を感じるパステル色と原色、許しの暖色などさまざまな表情と色合いが旋律となっていました。引き込まれる演奏でした。中でも音で語る弦楽器に引き込まれました。大集団なのに一糸乱れぬ演奏に聴き惚れました。
『ハムレット』より「私も仲間に入れてください」を演唱されたアマンダ・ウッドベリーさんには言葉が見つからないほど感動しました。生きている感動と言っても大げさではない高揚感を手にしました。ハイe(2オクターブ上のミ)を力強く、ストレスなしに歌う姿に鳥肌が立ちました。技術的なことはもちろんですが、オフィーリアの心の揺らめく姿、悲しみがまっすぐ伝わってきました。会場を埋めた聴衆全てが同じ思いだったようで、拍手が鳴り止まず、最後のフレーズを再度披露してくださいました。資料によると2013年にデビューしたばかりとのことです。これからの活躍が楽しみな方です。
バレエ組曲《ロミオとジュリエット》は言わずと知れたお話しです。聴いていると、厳しい縛りの世界 -狭い世界― に生まれた愛のお話しですが、壮大な人間物語と感じました。文学と音楽の関係の一端に触れたように思いました。
つい先日、ある会合でこんな発言を聞きました。「戦争になったら最初に切られてしまうのが音楽だろう。とかつては言い合っていたが、そんなことはない、音楽が必要なんだと改めて思うようになった」 個人的には音楽は欠かせないものと確信してはいますが、都響のこの公演を聴いて、更にその信念に太鼓判を押しました。生きている感動を得ました。