夢空間LaMusicaコンサート第35回
開催日:平成29年4月22日(土)
場 所:日本基督教団ロゴス教会
出演者:高柳圭(テノール) 盛田麻央(ソプラノ) 高田絢子(ピアノ)
桜は種類によってはまだ楽しむことができる八王子、京王線山田駅徒歩5分、磯沼牧場放牧場隣り、日本基督教団ロゴス教会で今年初めてのコンサートを開催いたしました。なぜ「新年度始めて」ではなく、「今年始めて」なのか、その理由はこの教会に空調設備がないことにあります。これは少々悩ましいことではありますが、困ったことではなく、自然環境の中で音楽を楽しむ貴重な教会(コンサート会場)と前向きに考えています。
35回目の今回は夢空間La Musicaが5年前の4月7日、始めてロゴス教会でコンサートを開いた時の音楽家三人にご登場いただきました。(訂正とお詫び:コンサート当日、6年前と誤って話しをしてしまいました)
滝廉太郎の『花』で始まった今回のコンサートテーマは『春の風』。高柳圭さん(テノール)、盛田麻央さん(ソプラノ)、高田絢子さん(ピアノ)それぞれが、また三人一緒に運んでくる音楽とお話しは当日の思わぬ肌寒さとは裏腹に、ふわり、ほっこり、にっこりな春の風でした。
三人が楽曲について話す際も、説明するというより、語りかける、お客様もうん、うんとうなづきながら耳を傾ける、そんな柔らかな空気が通い合いました。いつものことですが、今回も舞台と客席に境がない教会が会場であることが功を奏していました。
当日のプログラム(抜粋)
前半日欧の歌曲をピアノが紡ぎ出す春風に乗って、テノール、ソプラノが咲き誇る花の情景、出会いの喜び、恐れや不安を描き出しました。
後半、オペラアリアは狭い舞台ながらも演技も入れて、コミカルな二重唱、そして日本人なら感情移入せずにはいられない二重唱、歌曲では興味深い聴き比べも組み込まれました。
プログラムには載っていない、高田絢子さんからのプレゼント曲でした。春の膨らんだ空気の中、ひばりが天空をハイスピードで上下しながらさえずる様が軽やかに描かれていました。ロゴス教会に隣接する磯沼牧場の放牧場ほか、この地域では30年以上前には春の使者として雲雀が空高く舞う姿が見られました。短い曲ですが、懐かしい光景がたくさん目の前に浮かびました。
伯爵夫人(高柳圭!)と侍女スザンナ(盛田麻央)が浮気性な伯爵を懲らしめるワナ=手紙を書くシーンです。伯爵夫人がスザンナに手紙を書く指導をする場面は観客を多いに楽しませました。盛田麻央さんが演唱しながら、実際に必死になってカタカナで伯爵夫人(高柳圭!)の口述を書き取っている姿に笑みが会場から送られていました。森田麻央さんは「途中で訳がわからなくなってしまった」とおっしゃっていました。歌いながら、それもイタリア語で歌いながらカタカナを書くのですから、途中で訳がわからなくなったのもうなづけます。
伊達眼鏡をかけ、伯爵夫人に変身した高柳圭さんは借り物の眼鏡が老眼鏡!でした。頭がくらくらしつつも、そのようなことはみじんも感じさせず、おすましの伯爵夫人をしなやかに演じていました。
この場面をどのような舞台にするか直前まで考え、考え、当日のリハーサルでこのパフーマンスを決めたそうです。
よりよい舞台を作ることを追求し続ける姿に音楽家の心意気を強く感じました。
待ちに待った明るい春がやって来た喜びを華やかに、はつらつと歌い上げる盛田麻央さんと共に、春風に乗ってウィーンの晩餐会に入り込んだ気分を味わいました。
ポップスとクラシックが融合したような1曲、アンドレア・ボチェッリの歌で知られています。遺される自分と先立つ彼女(ひと)、人生に対する深~い愛と別離の思いを込めた祈りの歌です。高柳圭さん(テノール)のこの歌詞と一体化した演唱には哀切が深く、深く刻み込まれていました。
中田直 別宮貞夫 さくら横丁
同じ歌詞で春の日本歌曲といえば、必ず取り上げられると思われる曲です。
この曲はどちらの作品もソプラノ歌手が歌うことが多いかと思われますが、今回は中田直氏作曲『さくら横丁』を盛田麻央さん、別宮貞夫氏作曲『さくら横丁』を高柳圭さんで披露されました。
会場ではどちらか一方が好きという方、両方とも好きという方それぞれでした。
中田喜直氏の曲はどちらかと言えばセンチメンタルなのに対して、別宮貞雄の方は抑制の効いた表現の隅々からせつなさがにじみ出ていているかと感じました。また、別宮貞夫氏作曲『さくら横丁』は男声によく合うとも思いました。
オペレッタ「つばめ」より ドレッタの夢
高柳圭さんの曲紹介に、ん?と疑問を呈された盛田麻央さん、そこで登場したのが高田絢子さん。二人のもつれた糸を綺麗にほどき、お客様にもわかりやすくこの曲の内容を伝えました。国立音楽大学同窓生であり、コンビを組むことも多いこの三人のチームワークの良さが聴く者にも爽やかな〝風〟となって伝わりました。
オペラ「蝶々夫人」の中でも唯一幸せな時間を描いたアリアです。15歳の蝶々夫人(盛田麻央)とピンカートン(高柳圭)の愛の二重唱です。蝶々夫人が現す恥ずかしさと愛する・愛されることへの戸惑いは、日本人ならではの仕草が美しく、僕のもとに来てと何度も繰り返すアメリカ人、ピンカートンとの行きつ戻りつは聴いている(見ている)ほうも胸がきゅんとなりました。「蝶々夫人」の中のたった1曲アリアを聴いただけですが、全部体を鑑賞したような満足感を味わいました。
【アンコール】
ロゴス教会の作りを生かして、階上から下をみて歌う盛田麻央さん、舞台上で上を見上げて歌う高柳圭さんはこの歌詞、バルコニーを挟んで交わされる愛の歌にピタリな場面設定でした。いきなり階上に駆け上がった盛田麻央さんの機転に会場には声にならない喝采がこぼれました。
高柳圭さんは登場した時、打合せにない状況が掴めず、盛田麻央さんを探して、キョロキョロしてしまう姿も、結果的にはこの歌の内容を膨らませる演技となり、舞台を盛り上げました。
人間臭く、素直に愛する気持ちを表現する二人の歌と演に大きな拍手が送られました。
最後の最後まで1ミリも力を抜かない、音楽家達も一緒に楽しむコンサートの醍醐味でした。
お客様と一緒に歌いました。お客様全員が大きな口をあげて心の底から歌っている様子が舞台からもよくわかり、とてもよい時間だったというのが出演者三人の感想でした。
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