日時:2018年5月12日(土)
場所:ヴィ・マエストロ
出演:桂右團治
会を主催する立場に立つと、いつも気になるのはお客様の集まり具合です。どうしても一喜一憂してしまいます。しかし、それは会が始まるまでのこと。始まったらそのようなことはどこかに吹き飛び、会を開くことができた高揚感に満たされてしまいます。これもいつものことです。わかっていても毎回繰り返します。
今回は落語初体験の方も多く、熟れた笑いと気持ちキラキラの笑いが交じり合う不思議な心地よさが漂っていました。
枕噺 人間万事塞翁が馬
枕噺として出された「人間万事塞翁が馬」。師匠は「じんかんばんじさいおうがうま」と言われました。「にんげん」だとばかり思っていたのでえっ?と不思議に思い、これについて調べた結果、次のことがわかりました。
中国語では「人」と書けば人そのものだが「人間(じんかん)」と書くと世間を意味する。「人間万事塞翁が馬」の意味を考えると「人間」は「世間」意味するので、由来にこだわりたいのなら「じんかんばんじ・・・」という言い方になる。(出典:日本文化研究ブログ)
師匠の近況報告 外国人も楽しめるRakugo&Kamikiri
桂右團治師匠が紙切りの林家今丸師匠とタッグを組んで外国人向けに日本の古典芸能を英語で披露する活動を始めています。「時そば」の前半部分を英語で語っていただきました。難しい単語は一つもなく、日本人も外国人と一緒に笑えること間違いなしです。日本人は英語の表現に笑いを誘われるのではないかと思いました。外国人は落語のどこに可笑しみを感じるのか聞いてみたいです。
ご要望があればどこへでも出向くそうです。
落語「風呂敷」
落語を聞いて記憶の隅っこに追いやられていたことが浮かび上がってくることがあります。「風呂敷」では今あまり口に上らなくなったことわざに再会しました。ことわざを妙に言い間違える、勝手に解釈するところが愉快です。
「瓜田に履を納れず」「李下に冠を正さず」最近とんと耳にしなくなったことわざです。人間、このように生きたいものです。
「貞女は二夫にまみえず」「女三界に家なし」こちらのようなことは馴染まない世の中になりました。
落語「三味線栗毛」
座頭になるためには10両、匂当では百両、検校となると千両の上納金が必要とは驚きです。当時の貨幣価値で1両が10万円ということですから座頭になるためには百万円が必要だった、検校となると1億円!一体どのくらいい働けば百万円が貯まったのだろうか。座頭になるのが夢だった錦木は酒井雅楽頭となった角三郎との約束で検校にしてもらった。錦木はいったいどのような検校だったのだろうか。そういえば学者塙保己一も検校だった。
小松先生のお話
師匠の枕噺で英語が話題になったことを受けて、江戸時代の外国人との関わりが取り上げられました。
1854年2月10日、日米和親条約締結のための初交渉の舞台となったのが日本橋室町浮世小路にあった高級料亭「百川」。この時、江戸城まで運ばせた料理は伝統に基づいた本膳料理で、費用は2千両(現在の600~800万円*幕末近くは1両が3000~4000円との説をもとに算出)。デザートとして出されたのは当時は貴重品中の貴重品だった氷で冷やした柿に甘酒のようなものをかけた一品だった。幕府が最高のもてなしをしたことがここからもうかがえる。
落語「百川」は料亭「百川」の宣伝用に作られたとも言われている。1870~80年代には江戸で落語を楽しむことができるところは250軒もあったが、今、定席寄席は4軒のみ。
小松先生のお話で描かれる江戸時代の日本橋室町は風情に満ちています。再開発で様相が大分変ってしまった日本橋界隈ですが、先生の案内で横丁探索してみたいものだと思いました。まだまだお江戸日本橋に出会えそうです。
落語会後の交流
ヴィ・マエストロの粋なひと皿と師匠、隣り合った人との交流も心地よいひと時です。興が乗って時間が飛ぶように過ぎていきます。