石鍋香代子氏による19世紀フランスのロマン主義文学、音楽の状況を踏まえて、アレキサンドル・デュマ・フィス作「椿姫」、これをもとに作られたG.F.F.ヴェルディ作曲「ラ・トラビアータ(椿姫)」に焦点を当てたレクチャーと「ラ・トラビアータ(椿姫)」オペラコンサートに行ってきました。会場はサントリーホール小ホール。当日、大ホールはコバケンこと小林研一郎氏指揮の日本フィルハーモニー楽団のコンサートでした。
音楽を聴く機会はたくさんありましたが、作品の成り立ち、時代背景を詳しく知る機会は今までになく、レクチャーはたいへん興味深いものでした。
デュマもヴェルディもモラリストとして、人の心を丹念に描くという点では共通しており、これは両者の生い立ちに深く根ざしている状況に同質のものがあったことに由来すると思われること、ロマン主義は一般市民に根ざした文化であること、社交界に対する裏社交界そこに身を投じている高い教養と会話力を備えた高級娼婦、等々の背景が詳しく解説されました。予定時間1時間ではとても収まりきらないほど濃く、深い内容を少々時間オーバーをしながらも、石鍋氏は立て板に水かと思うほどのなめらかな早口で駆け抜けました。私のメモは追いつかず、またせっかくの内容の半分ほどしか理解できず、少し残念でした。
オペラコンサートはテノール高柳圭さん、ソプラノ辰巳真理恵さん、ピアノ吉田彩さん。ラ・トラヴィアータから代表的なアリアが披露されました。レクチャーの半分ほどしか頭に入らなかった私ですが、そしてこの作品の成立経過については大まかには知っていましたが、いつもとは聴く気持ちが大きく違いました。聞いたばかりの19世紀フランスの政治情勢、ヨーロッパにおけるフランスの位置づけなども加味され、よく知っていると思っていたこのオペラに新しい命が生まれたような感覚を持って舞台を見つめ、二人の演唱に耳を傾けました。直にお話しを聞くことに大きな意味があると改めて思った次第です。
夢空間La Musicaでは高柳圭さんにアルフォーコの一員として、またソロの声楽家として何回も出演していただいております。また彼の出演するコンサートはできる限り足を運ぶことにしています。その高柳圭さんにコンサート終了後、「君の歌を始めて聴きました。大変感激しました。素晴らしい」と話しかけられた紳士に出会いました(上写真)。偶然立ち会えた感想の言葉は私の心の内を静かに興奮させました。
ヴィオレッタを演じた辰巳真理恵さんは俳優辰巳琢郎さんのお嬢様と知りました。お嬢様をふわりと控えめに包む辰巳琢郎さんの父親としてのやさしさが心地よい風景でした。オペラ会場で何回かお見かけしたことがあったのには理由があったのだと納得しました。