チェロとピアノの対話VOL.Ⅲ

夢空間La Musicaコンサート第30回

◆開催日:平成28年4月23日(土)

◆場所:日本基督教団ロゴス教会

◆出演者:佐藤智孝(チェロ)児玉さや佳(ピアノ)

 

夢空間La Musicaは5年目を迎えました。

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冒頭、ピアニスト児玉さや佳さんご自身が楽譜に落としたレクイエムを演奏されました。プログラムには載せませんでしたが、被災して5年を迎える東北のみなさま、今まさに直面されている熊本大分のみなさまへの思いを込めた演奏を披露しました。演奏後、全員で黙祷を捧げました。会場がロゴス教会ということも重なり、厳かな空気に包まれ、祈りと鎮魂の思いが広がりました。

【自由で即興的な部分にあふれた作品】

「ベートーベン後期のピアノソナタ28番作品101 イ長調はソナタとなってはいるが、ソナタ形式ではない、自由で即興的な部分が溢れている。ロマン派ではないけれど、ロマンティストであったベートーベンの深い愛情を演奏で表したい」児玉さんはそう話されて静かにピアノに向き合われました。鍵盤に指をおくまでのいっとき、児玉さんはベートーベンと対話し、聴衆は予測できない期待に息を詰める緊張感はコンサートの醍醐味の一つです。

プログラムにあるように「内面からの深い愛情を持って」聴き手を柔らかい感情へ誘う始まりは冒頭のレクイエムを深く受け止めた聴衆を優しく受け止め、会場の緊張がソナタへの期待にゆっくり変化していきました。

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第三楽章の起伏に富んだ旋律は、決まり事の中には収まりきらないベートーベンの愛、愉快さの現れかと思われました。

児玉さや佳さんのベートーベンに寄せる思いも重なり、20分という 演奏時間はあっという間に過ぎました。

【即興演奏だった?】

悲しみに暮れる友人(女性)のもとに「こんにちは」も言わず、他にも何も言わず入っていき、黙って彼女の家にあるピアノに座り黙って演奏して終わると何も言わずに帰って行ったというエピソードが〈エリーゼのために〉にはあるという児玉さんの話におなじみの曲の新らたな一面を知ることとなりました。〈エリーゼのために〉は何度聞いても素晴らしいという声も寄せられていました。

ベートーベンには即興曲が2曲くらいあると言われているそうで、もしかしたらこの〈エリーゼのために〉もその一つかもしれないそうです。

 

【みなさまからお題をいただいて】

児玉さや佳さんといえばピアノ即興演奏とおなじみのお客様は楽しみにされているコーナーです。今回お客様から出されたお題は「春に咲くタンポポと賑やかに遊ぶ子供達」「盲導犬と歩く人を見た人はそれをどんな風に感じる?」の二つでした。

風に揺れ、群生するタンポポ、始めは少し戸惑う子供達、しかしすぐに本領発揮して飛びはねる、寝転がる、追いかけっこをする情景、タンポポに埋まって静かになる子供達、そんな情景が描き出されました。お客様のほとんどはご自分の孫を思い浮かべたのではないかと思います。

DSC09742「盲導犬と歩く・・・」というお題に児玉さんは中空を見上げ、今ひとつイメージが湧かないなという様子でしたが、お題を提案した盲導犬と暮らすセアまりさんに質問をいくつか投げかけられた後の即興演奏は初めて町中で盲導犬に出会った人が戸惑いつつも目を放せず見つめる様子、そのうちに盲導犬とその使用者のお互いに弾む気持ち、思いやる気持ちが伝わり、戸惑いが消えて一緒にワクワクする弾む気持ちに染められていく様子が描き出され、お客様も思わず笑顔になってしまいました。即興演奏に望む寸前の児玉さや佳さんの沈黙の時はこのコンサートの厚みを感じる瞬間でもあります。

【希望を!】

チェリスト佐藤智孝さん は仙台ご出身です。宮城県庁に勤める友人の話「震災後、人の姿がなくなった海は以前にも増して美しい。5年という月日が流れたが、復興を実感できるもものが沿岸部にはないのが悔しい」を紹介し、被災者達は忘れ去られる寂しさを感じている現状を話されました。作曲家平田聖子さんが東北の皆さんを思い、広瀬川をイメージして東北へ寄せる思いを曲にした「そら」の演奏で後半が始まりました。大きなメロディの渦に身をゆだね、ひたすら柔らかく、さまざまなトーンで語りかける私たち、真情を吐露する被災者の言葉、それら全てが広瀬川の流れに添って展開されていきました。チェロがピアニッシモで長く、長く弾く最後は心ふるえました。佐藤智孝さん のチェリストとしての矜恃を見る思いでもありました。

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【長調と短調】

誰でも知っている歌「うれしいひなまつり」それと意識することはあまりないかもしれませんが、短調なのですということ、その理由は18歳で亡くなった姉を思って作曲された曲だからという紹介に続いて、長調、短調のお話しを楽しく聞きました。ちなみに「ひなまつり」はメキシコで大ヒットしたそうです。題名は「哀しきみなしご」なのだそうです。短調を思いっきり活用した内容と想像します。

 

 

 

 

 

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【30分に及ぶ大曲】

「肩の力を抜いて自由に聴いてください」と言われて演奏されたベートーベンチェロソナタ2番イ短調はピアノとの掛け合いが魅力的な曲でもあります。ピアノの積極的な語りかけも楽しく、まさにチェロとピアノの対話です。短調の曲ですが、気持ちを明るく揺さぶられます。いつものことながら、チェロとひとつになる佐藤智孝さんの演奏を存分に楽しみました。あっという間の30分でした。ご本人曰く、「人の演奏でこの曲を聴くときは長いなと思って聴く」とのことでした。

 

お客様の声

内省的で構えの大きな曲の世界にどっぷりと入り込んだ後、とても軽やかで、明るい即興曲を体験し、音楽の色彩を感じました。素敵なピアノですね

大好きなチェロを存分に楽しませていただきました

レクイエムは心に響く、呼びかける感情に溢れていました

何度聴いても、何回聴いてもエリーゼのためにはすてきです

即興演奏に児玉さや佳さんの才能を見ました

「そら」は個々の人達の思いを乗せて吹き渡る風を想像できて素晴らしい、佐藤智孝さんのテーマソングになりそう

チェロソナタは想像以上に大曲ですね。チェロとピアノの相性もいいです。