開催日:平成28年11月26日(土)
出演者:桂右團治(語り)河口三千代(ソプラノ)野畑愛(クラリネット)渡辺美佳(ピアノ)長尾知子(パーカッション)
落語家が語る昔話と西洋の音楽を結びつけたら懐かしいけれど、新しい昔ばなしの世界を作ることができるのでは、という突飛な発想が形になりました。今回は八王子から抜け出し、アールズアートコート(大久保労音会館)での公演となりました。
出演者も夢空間La Musicaも未経験分野のコンサートを実現させるに当たり、まず行ったことはこのチームに名前をつけることでした。手探りの中を一致団結して進むため、そしてワクワクしながら準備をするために必要なことと考えたからです。その名前は「日本昔ばなし組」です。
そのおかげ(?)もあり、打合せは真剣な検討会の中に、温かな笑いがふんだんに盛り込まれ、その笑いが推進力ともなりました。
そしてこの企画を通して交流を深めた出演者五名は「まんまるず」というユニットを結成するに至りました。これからロゴデザインを検討することになりました。懐かしくて新しい、日本のふるさとを創る愉快な集団の誕生です。
【浦島太郎】
浦島太郎のお話しは日本各地に伝わっており、古くは日本書紀、万葉集にも登場するおとぎ話の一つです。その内容は地域により少しずつ違うようです。一般的に知られているのは心優しい漁師、浦島太郎が子供にいじめれられているカメを助けたところからお話しが始まります。今回はそれとは違う室町時代に成立した短編物語「御伽草子」による浦島太郎のお話を取り上げました。物語を読み下すところから立ち止まる場面がありました。〈みるめ〉とは何のことか、(注:海藻)、〈鴛鴦=おしどり〉のフリガナが〈ゑんわう〉となっており、さて何のことかと頭をひねる始末でした。しかし、このような言葉に接っしているうちに、全員が室町時代の御伽草子の時代へと自然に入りこんで行きました。
挿入する音楽については音楽家達の身体に蓄積されている膨大なデータを出し合い、検討がされました。時間をかけて検討が行われ、いったん決まりかけた曲の数々でしたが、クラリネット奏者野畑愛さんの一言、 「神が降りてきた。サンサーンスの動物の謝肉祭」ということで浦島太郎と動物の謝肉祭からの選曲と決まりました。この組合せの妙には一同大納得し、野畑さんに崇拝の目を向けました。
異質と思われる西洋音楽でどのように昔ばなしの世界にお客様を誘うかも大きな課題でした。歌と語りですこしずつ時を巻き戻していく、聴く者の記憶を呼び覚まし、そこから平安時代の雅楽のお話しにまで誘う手法をとりました。音楽家達のジャンルを超えた幅広い知識、何よりもその遊び心が生かされました。
二部の「屁ひり女房」のコミカルな動き、扮装とは異なり、語りと音楽のみで構成した「浦島太郎」は合わせの段階でも大いに悩み、改良を図ってきました。音響機器を使いこなせない中で、ピアノ、クラリネット、パーカッション、ソプラノと語りのボリュームバランスをできる限り整える努力を重ねました。しかし、お客様の声にもありましたが、語りと音楽のバランス、歌と楽器演奏のバランス、語りのボリュームなどについては改良の余地が大いにあります。今後に期待してください。
「浦島太郎」遠い昔の日本が舞台ですが、その足跡は現代にも息づいています。海洋研究開発機構の自立型深海巡航無人探査機の名前は「うらしま」、2014年に打ち上げられた“はやぶさ2”が目指す地球近傍小惑星の名前は「リュウグウ」です。
【屁ひり女房】
とてつもないエネルギーを持った〈屁〉をする、そればかりではなく、強力掃除機のように屁を吸引することができるお嫁さんを迎えた山里の家族のドタバタを面白おかしく描いたお話しです。
これを形にしていく際には浦島太郎とは違う苦労がありました。それは笑いすぎて合わせにならないことでした。この物語の可笑しさを存分に味わっていただく工夫が次々に出され、その度に大笑いとなってしまうからです。しかし、ここで出された工夫は当日の会場が笑いに包まれたことでもわかるように、素晴らしいものでした。日本昔ばなし組の音楽家達は演劇の素養も持ち合わせているようです。
クラリネット、バスクラリネットのマウスピースが奏でる(出す)屁の音、色合いの多様性も聴きどころの一つでした。ちなみに、クラリネットを分解しながら演奏する「クラリネットをこわしちゃった」、反対にマウスピースだけから始まり、段々に組み立てて、最後にはクラリネットそのものの形になる「クラリネット作っちゃった」という聴いて、見てとても楽しい演奏があります。
お嫁さんの角隠し、柿の木、お母さんの坊主頭など、扮装の全てを手がけたのはソプラノの河口三千代さんでした。身近な資源を使って素敵な小道具を作る河口さんの才能はチームの宝です。今後の“まんまるず”公演を通して、ますます進化していくものと思われます。
ところで、屁ひり女房が存分に屁をすることができる家屋を夫となった息子が作り、その名前を「へ屋」と言ったそうです。現代でも普通に名詞として使われる「部屋」ですが語源はこの「へ屋」と言われているそうです。
【シング・シング・シング】
アンコールでは江戸の片田舎から昭和の日本を通り越してスウィングジャズの世界にひとっ飛びしました。ピアノ、クラリネット、パーカッション、ソプラノの軽快で躍動感溢れるリズムのシャワーとなりました。
【落語「桃太郎」】
右團治師匠は西洋音楽に組み込まれた〈語り〉という普段とは異なる世界で新境地を開かれました。物語に合わせた着物での語りは聴く、見る、両面の楽しみがありました。
この公演の締めは真打ち落語家の話芸を楽しんでいただきたいということでアンコールで落語「桃太郎」を披露していただきました。
落語「桃太郎」は眠れないという息子を寝かしつけるために桃太郎の話を始めるお父さん。いちいち理屈っぽい質問をする息子に翻弄され、最後はお父さんが寝てしまうという噺です。お父さんと息子の掛け合いは落語ならではの面白さでした。昔ばなしも黙って聞くだけではないようです。
初めての体験だった、刺激になった、今後に期待したいといったお客様の声は今後の活動のエネルギー源となります。課題を解決しながらより完成度の高い音楽と語りで紡ぐ昔ばなしの世界を目指します。
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