チェロとピアノの対話Ⅳ - 表情豊かな旋律に出会う –

開催日:2018年4月14日(土)

場 所:日本基督教団ロゴス教会

出 演:佐藤智孝(チェロ)児玉さや佳(ピアノ)

 

毎回のことですが、コンサート当日に雨予報が出ていると、普段は全く縁のない祈りというものを天に捧げます。今回も週間予報の雨マークを消してください、と祈り続けました。結果は曇りでした。俄か祈りも聞き届けてくださる天に感謝の念でいっぱいになりました。少し肌寒くはありましたが、ひざ掛けでしのげる程度でした。

佐藤智孝さん(チェロ)、児玉さや佳さん(ピアノ)のコンサートは今回で9回目となりました。

リハーサル

主催者の楽しみに一つにリハーサルがあります。本番に向けての音楽家同士のやり取りには厳しさと阿吽の呼吸で流すところが混ざり合っており、大変興味深い時間です。

このデュオコンサートは昨年、佐藤智孝さんが交通事故に遭い、直前で中止になりました。そのこともあり、当日はリハーサルの段階から出演者、主催者双方ともいつもとは違うスイッチが起動していました。

お二人のリハーサルを舞台の具合、音の伝わりなどを確かめるために移動しながら聴きました。これはいつものことですが、今回特に強く感じたことが二つありました。一つはかぶりつき席でチェロの弦と自分の体が共振する快感、もう一つは佐藤さんと児玉さんの間で飛び交う無言、有言のやり取が生み出す息をするのも憚られるほどの張り詰めた空気が、同席している主催者には甘美な“ストレス”となって降ってきました。主催者冥利に尽きることでした。

熊本地震犠牲者への鎮魂

2016年4月14日に発生した熊本地震から2年目当日開催のコンサートとなりました。出演者お二人と相談して、プログラムにある『そら』を追悼演奏として捧げました。

24の前奏曲作品28:F.ショパン

ショパンと言えばピアノ曲を思い浮ぶのではないでしょうか。ピアノを歌わせる天才と思いますが、今回もまたその思いに囚われました。

この作品はほとんどが短い曲で構成されていますが、すべての長調、短調を使った組曲(児玉さや佳さんのお話)です。透明感あふれる水彩画のような作品、陰影に富んだ作品、重厚な音の重なりが押し寄せてくる作品など様々な表情をまとった曲が次々と現れました。第7曲はショパンの前奏曲というよりも、胃腸薬のCMの曲として知られているかもしれません。また、第15曲『雨だれ』は代表曲として知られています。ピアノ曲の展覧会といえる作品でした。

全曲を一度に聴く機会に出会うことはなかなかないと思います。貴重な時間でした。

◇お客様の声

このような小ホールでのコンサート(主催者注:定員40名の教会会堂)は初めてで、児玉さや佳の指の動き、メロディーに力強さと優しさ。心にじ~っときました。響きました。

即興演奏

「今日、この山の中に来て、その印象を即興で弾いてみて」これが初めてピアノ即興演奏講習会をドイツで受けた時の課題でした。(児玉さや佳プロデュースvol.13プログラムより)

児玉さや佳さんの演奏会プログラムには必ず組み込まれる即興演奏です。一般的にコンサートとえば、バッハ、モーツァルト、ベートーベンなどの作曲家が楽譜として書き残した作品を再現した演奏を聴くことを思い浮かべます。しかし、即興演奏はその場でイメージ、言葉、風景などのお題をお客様から頂戴して、即興で演奏します。児玉さんがピアノに向かい、じっとうつむいている姿に目と耳が集中する20秒ほどの時間はこれから始まる即興演奏への興味と期待で空気が張り詰めます。今回の出されたお題は「多摩御陵」「春の嵐」でした。

多摩御陵に行かれたことがない児玉さんは希望された方や周りの方から御陵の由来、雰囲気、風景などちょっとしたレクチャーを受けました。清々しい空気、小石を踏む足音、御陵まで続く参道の北山杉が発しているかと思うマイナスイオン、を感じました。多摩御陵の中で聴いている気分になりました。

今年は「春の嵐」に何度か出会いました。春の膨らんだ空気が激しく吹き荒れる、納まったかと気を抜くとまた襲われる、その様子が重く、激しく描き出されました。

そら:平田聖子

~悲しみに寄り添って~

2011年の東日本大震災で、被災地のみなさんの大きな悲しみにふれたとき、作曲家平田聖子さんが作曲されたのが歌曲「あなたと私」、器楽曲「そら」です。伸びやかなメロディーの中に被災地に住む方々一人一人の顔と心、寄り添う方々の顔と心、犠牲となった人々の証が刻まれています。

佐藤智孝さんの出身地、目の前が海の仙台市若林区荒浜は2011年3月11日に津波にすべて飲み込まれました。現在、居住禁止区域に指定されています。今、その禁止区域ギリギリの場所に住み、復興を目指し、活動している仲間がいることを日本中の人に知らせたい、震災のことを忘れないでほしい、できることは何かを考えている人は、機会があればそこに行って被災地の今を見て感じてほしいと話されました。知人の生死を確認するのも憚られる気持ちが何年も続いたそうです。

始めに鎮魂の思いを込めて演奏された『そら』が2回目の演奏では佐藤智孝さんの言葉を纏って、より深く浸透してきました。

チェロソナタ第3番イ長調作品69:L.v.ベートーベン

「怖い顔をしたイメージを持たれるベートーベンですが、『師匠、ハイドン先生に教わったことは何もない』と言い放ってしまうやんちゃな面もあった」そうです(佐藤智孝さん)。佐藤智孝さんのお話にはユーモアもあり、演奏を聴く人の固定観念を優しく壊します。今回は少し違いました。この曲を選択した理由をお話されました。

[佐藤智孝さんのお話]

昨年の事故後1か月間は右手はモノを握ることができなかった。その期間に自分がやり残したことは何かを真剣に考えた。ベートーベンのチェロソナタの中で人前では一度も演奏したことのない5番、食わず嫌いのフランスもの、ドヴィッシーのチェロソナタなど今まで手を付けてこなかった曲に取り組むべきかなど考えに考え抜いた。その結果、やっぱり好きな曲を演奏しようというところにたどり着いた。それが今日のチェロソナタ第3番。

このソナタは有名なので、出だしを聴くと誰でもああと思うはずです。チェロが無伴奏で奏でる旋律にピアノが続く美しい出だしから引き込まれました。

アンコール 白鳥:サンサーンス

最後の長く続くピアニッシモに魅了されました。